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ゴッホであるコトの悲しみ
ただただ南へ行きたい、意味も目的も何も無い旅だったから、
何もするコトが無かった。
そして何もする気が無かった。
とんでもない国に来てしまった、そんな気持ちを抱えながら、
私達は海沿いのキャンプ場でぬぼーっと1週間を過ごした。
スペイン
この国のアマリのあくの強さとアマリの暑さに、
何だか脳ミソが溶け出して、
穴という穴から流れ出てしまいそうな感覚に襲われた。
(ちと汚いか...)
それから何となく響きが綺麗だったので、私達はコルドバの街に行くことにした。
道路標識のコルドバの文字だけを頼りに車を走らせる。
別に何が何でもコルドバに行かなくてはならない理由もナイので、
迷ったら迷ったで何の不幸も不利益も不都合もナイ。
そういう時に限って
全くスンナリ迷うコトなくコルドバの街に辿り付くんだから頭にくる。
本当に何時になくムカツク程に順調な道程であった。
日本人である私、そしてドイツ人であるインゴにとっても山の定義は「緑」だ。
だからスペインの草一本生えないゴツゴツとした岩山の連続に、
私達は随分と大きなカルチャーショックを受けた。
まるで月の世界を旅しているかのような感覚に陥った。
心なしか息苦しく、酸素も薄いような...
イヤしかし、これはきっとこの暑さが原因なのだろう。
そんな岩山のカーブを曲がりきった時、
核爆発が起きた。
私達の視野に突如として飛び込んできたのは大地を埋め尽くすヒマワリの群れだった。
「鳩が豆鉄砲くらったような顔」
ニュアンス的には何となく分かるような気もするけど
正確に一体どんな顔なのであろうか?
そんな疑問を密かにずっと抱きつづけてきた私。
あの時のインゴの顔は、これ以上に無く正統で正式な「鳩が豆鉄砲くらったような顔」だった。
でもきっと私もそんな顔をしていたと思う。
前も後ろも右も左も、ドコもカシコもみ〜んなヒマワリだった。
何時もの如くヒネリの無い、どこまでも青い空と、
これまた単純な全く黄色のヒマワリが、
反発しながら視界の隅々にまで共存していた。
私達は車を急停車して、
「ひまわり〜〜っっ」
と各々の言語で叫びながら黄色の海に飛び込んだ。
その強暴なまでの黄色に私達はノックアウト寸前だった。
更にこの強烈な太陽の日差しが私達に追い討ちをかける。
頭の中がガンガンしてきた。
なのに私達は念には念を入れた演出を試みて、
目を瞑り、ワーキャー叫びながらグルグル廻った。
(妖しい外国人)
気温は軽く40度を超え、そして私達はゲロ吐き寸前。
いっせぇ〜の〜せっっっで目を開ければ、
私達の目の前に広がる、予想以上のゴッホの世界。
黄色のヒマワリがグルグルとした渦となって、
青い空のコレ又グルグルとした渦に向かって過激に果敢に襲いかかっている。
す、凄い、スゴイ、すごすぎるっっっっ。
グワングワンした耳鳴りまで聞こえてきた。
ヒマワリが強暴な顔で一斉に私達を睨み付けているように思えた。
私はカラスのいる麦畑の真中で自分の頭をピストルでブチ抜いたゴッホの事を考えた。
ゴッホを更に苦しめていたのは絶え間の無い耳鳴り。
ゴーギャンと喧嘩して耳を切り落としたゴッホの事を思った。
こんな世界に生きていたのか...。
私には一瞬だって絶えられない。
身震いがした。
目を覆っても、耳を切り取っても、この狂気からは逃れられない。
「死」だけが唯一の安らぎを得る手段だったのか?
私は声を失って、ヘナヘナとその場に崩れ落ちた。
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